研究内容

進行中の研究

全反射を利用した界面敏感なラマン分光で脂質二重膜中の膜結合ペプチドの構造と配向変化を捉える

概要

筑波大学在職のときに開始した研究で,科研費基盤研究Cの研究課題(23K04661)です。固体と液体の界面(固液界面)には,平面の脂質二分子膜を準備できます。この膜は,基板支持脂質二分子膜(Supported Lipid Bilayer:SLB)と呼ばれます。SLBは,細胞膜のモデルの一つです。本研究では,このモデル膜を用いて,膜結合性のペプチドや色素が膜中で取る構造や配向が,膜の流動性が変わったときに,どのように変わるのかを明らかにすることを目指しています。このために,固液界面にリン脂質と膜結合ペプチドの混合SLBを用意し,ここに界面敏感なラマン分光を適用するという方法を着想しました。SLBは配向が良く定まったモデル膜です。SLBを利用することで,配向の変化も調べることができます。ラマン分光で得られるシグナル(ラマンスペクトル)は,分子構造や配向に敏感です。スペクトル変化を通して,これらの変化を捉えます。


これまでに,グラミシジンやアラメチシンという膜結合ペプチドとリン脂質の混合SLBの質の良いラマンスペクトルを得ることができています。また,装置に温度制御の機構を実装し,膜の流動性を温度変化によって変える実験に取り組む段階に到達しています。この時点で,奈良女子大学に異動しました。


研究環境が大きく変わったため,研究計画や内容を見直しました。界面敏感なラマン分光や脂質膜というキーワードは継続しつつ,新しい環境で独自にできそうなことを模索しています。まずは,全反射ラマン分光装置を本研究室に実装します。筑波大学のときに構築した装置のコピーではなく,より利便性の高い装置を構築する予定です。この内容で,2024年度 奈良女子大学研究推進プロジェクト経費に採択され,補助を受けています。


全反射ラマン分光の概要
固液界面でレーザー光を全反射させたときに,溶液側のわずかな空間領域に生じた電場で界面近傍だけのラマン散乱を誘起する。

実験室(C314室)の様子
装置を新規構築中です。

計画中の研究

原子力科学研究所のグループ,および,筑波大学の分光物理化学研究室(石橋研究室)との共同研究の準備を進めています。


また,同志社大学や量子科学技術研究開発機構などの近隣の大学・研究期間の先生方との共同研究の可能性も模索・準備を進めています。


このほか,大学院生のときの指導教員(京都大学・寺嶋正秀 教授)の最終講義(2025年3月)に影響を受け,新たな試みを始めたいと日々着想を練っています。早く公開できるように取り組みます。