理学部化学科の卒業生は、現在1300名になっています。1965年に大学院理学研究科修士課程が設置され、大学院修了生は230名で、1981年には大学院博士課程の設置にともない現在までに10名程が博士の学位を取得しています。卒業生の多くは、化学、繊維、製薬、電気、情報処理などの化学に関連した企業や教員、官公庁などの公務員としてさまざまな分野で活躍しています。そのうち5名の卒業生からのメッセージを紹介します。大学で化学を専門として学んでいると、社会に出て非常に幅広い分野でその知識や経験を生かすことができます。自分の将来を考えるうえで参考になればと思います。

電機メーカにおける化学屋の「地球環境との共存」への貢献
   
     大谷 裕子さん

 1981年に松下電器産業株式会社に入社以来、モータ社(社内分社)に在籍しております。現在所属している事業場は皆さんにも身近な家電製品や自動車用のモータを生産しています。電気部品とはいえ、モータを構成する部材には絶縁材料と称する樹脂や、接着剤、ゴムなど多くの有機材料が使われており、開発部門でモータ材料の開発に従事してきました。特に環境問題でオゾン層を破壊すると言われた冷蔵庫・エアコン用フロン(CFC12、HCFC22)の代替化の時期に、代替フロン用のモータ材料仕様を決めてきました。その後、開発部門から環境チームに転籍し、製品に含有する有害化学物質対応を担当しています。電機メーカで化学屋は少数派ですが、それだけに専門性をより発揮することができ、有害化学物質を排除したモノづくりから、社内のしくみづくり、そして松下内外のお客様に安心してお使いいただくための調査やご報告まで、製品環境対応については事業場の全部署を横断的に取りまとめて推進しています。最近は経営全般に渡る業務も増えてきましたが、化学という基盤技術が私の社会生活の基礎と自信になっていることを実感しています。現代社会では、技術開発の発展だけでなく地球環境との共存にも化学知識が重要不可欠です。在校生の皆さんの社会での活躍と、これから化学を学ぼうと希望に燃えている高校生の皆さんの活躍を大いに期待しています。



松下電器産業株式会社
モータ社 家電電装モータ事業部
事業企画担当参事 兼 環境チームリーダー

昭和55年化学科卒業


ワインの新商品・製造技術開発-美味しいものを創る喜び
   
     黒川 美保子さん

 私はサントリー(株)に入社以来、ウイスキーや清涼飲料の商品開発・技術開発に約10年携わり、現在は「ワインの新商品開発」と「ワイン製造に関わる基盤・応用技術の研究開発」を担当しています。ワインは「葡萄を酵母で発酵させたお酒」で、赤・白・ロゼワインがよく知られており、シャンパーニュなど発泡性を持つものもあります。また近年では、葡萄以外の様々な果物を用いた「フルーツワイン」も楽しまれています。
 新商品開発業務は、(1)お客様の「ニーズ」(今どんな商品が求められているか?)を的確に把握し、(2)ニーズを満たす「商品コンセプト」を創り、(3)コンセプトに合致する美味しい「中味」を設計し、(4)設計通りの香味を造れる「製造工程」を設計するなど、多岐に亘ります。また同時に「食の安全・安心」をお客様にお届けできるよう、原料からお客様が商品を召し上がるまでの「品質保証」を行うことも私の重要な業務です。この仕事には原料に関する知識、多種多様なワインを造る醸造技術、香や味を鼻と舌とで正確に評価する能力、様々な特徴を持つワインをブレンドしてイメージ通りの香味を創造する技術、容器・製造工程・関連法規を熟知することなど、広範な知識や技術が要求されます。また、食生活を含むライフスタイル全般のトレンドの把握や業界・競合商品のリサーチ&解析を行うなど、マーケティングの知識やセンスも必要です。
 「お客様に喜ばれて、売れる商品」を創るのは非常に難しいことですが、自分の手で美味しいもの・新しいものを創る喜びを感じられる魅力的な仕事でもあります。実務面のスキルは入社後に身に付けたことが多いですが、学生時代に学んだことは色々な面で生かせていると感じています。化学の基礎知識や実験手技だけでなく、「技術屋」としてのものの考え方の基礎は、4年間の講義・実験・卒業研究を通じて培われたのではないかと思っています。



サントリー株式会社 ワイン事業部 商品開発研究部 主任研究員
ワインアドバイザー[(社)日本ソムリエ協会認定]

平成元年化学科卒業


 「地道な研究姿勢」と「新薬の芽の発見」/「信頼性保証業務」

     薬学博士 柴生田 由美子さん
      
 武田薬品に入社し「薬理(薬の作用及びその作用機序などの研究をする学問分野)」関係の研究所で約20年間、循環器系薬剤の開発研究。ブロプレス(Angiotensin II受容体拮抗薬で高血圧及び心不全に有効)の創製に携わりました。女子大では、実験時に男子学生に頼ることは出来ないため、全てを自分達で実施する習慣を身に付けられたこと、及び、30年前で実験機器など何もない「無」の状態から、流行の華やかさはないが萌芽的な「ささやかな」研究テーマを見出して取り組む先生方の「真摯な研究姿勢」を身近に学べたことが、入社後、「誰も顧みないささやかなテーマ」を「自分で」見出し、「地道に」探求して、世界で最初に低分子化合物が高分子蛋白質Angiotensin IIの受容体拮抗作用があることを見出したことで、「新薬の芽」を発見でき、さらに多くの高血圧/心不全患者を救える新薬の開発・上市に繋がったと思っています。
 1997年から1998年に、新薬製造承認申請資料に使用された試験データに関する捏造事件及び新薬の毒性試験結果隠蔽による承認・市販後の薬害事件が発端となり、申請に使用する根拠資料は「信頼性基準」に則って収集・作成されていること、さらに、「信頼性基準遵守の通知」により、社内監査体制構築が法律で義務付けられたことに対応して、社内に監査部門が設置されたのを契機に、監査部門に異動しました。研究所で作成された申請関連資料(論文及び試験報告書)、それに掲載されるデータに関する全ての測定データ及び関連書類について、上記信頼性基準への適合性を調査し、問題があれば、再試験の必要性を提言するという業務に携わっています。薬理研究者の実験ノート等の監査の際には、化学科で学んだ知識及び経験がおおいに役立っています。この職場は、新薬が世の中にでるためには避けて通ることのできない部門であり、「地道で根気の要る」仕事ですが、大変やりがいのある業務です。

 
 

武田薬品工業株式会社 医薬研究本部
研究監査室 主席部員

昭和45年3月化学科卒業
同 47年3月大学院修士課程修了 


    ナノ空間構造の構築と機能        
 
    理学博士 今栄 東洋子さん
      
 原子や分子は互いに引き付けあう力と反発する力をもっており、引き付けあう力が働くときには“集合”します。集合現象は溶液中でも界面でも起こり、会合体や薄膜が形成されます。ナノメートル(10‐9m)サイズの集合体はナノサイエンスの材料であり、その構築はナノテクノロジーに相互寄与して発展しています。
 私達は両親媒性分子、高分子、色素、錯体を用いた組織体(秩序構造をもつ集合体)を構築し、その特性を研究してきました。さらに、新規ナノ物質である樹木状高分子(デンドリマー)の特性研究とその応用のための基礎研究を行っています。デンドリマーは低分子を取り込む(内包する)性質があり、薬学の分野でのドラッグデリバリー(薬物輸送)システムや医学用診断剤としての利用が可能であります。DNAを含む高分子電解質との結合性にも優れており、DNAベクター(媒介者)として医学の遺伝子治療への貢献が期待されています。デンドリマーと金属および金属酸化物微粒子との複合物質の合成にも成功し、光触媒材料としての有効な機能を確認しています。大変興味のある研究分野です。

 

慶応義塾大学理工学部 特別研究教授
名古屋大学名誉教授
日本学術会議 会員

昭和40年3月化学科卒業


   知的財産の応援団−弁理士となって 
   
    弁理士 神谷 惠理子さん
  
 すばらしい発明は、企業の知的財産として他人の模倣から守る必要があり、この知的財産保護をサポートするのが弁理士です。新規技術を扱うので、取扱い分野についての勉強は必須です。ですが、発明者から最先端の技術についての講義を受けて報酬を頂けるというお得な職業です。私の専門分野が化学、バイオであることから、最近話題の再生医療に関わる機会にも恵まれ、知的好奇心を満足させてくれます。また自ら事務所を開設してからは、顧客サービスをモットーにフットワークのいい便利屋ならぬ弁理士を目指し、以前より包括的に顧客と関わっています。発明発掘段階から関わることにより、よいデータが出たときは、発明者と喜びを分かち合うことができます。このように、やりがいある職業であり、理学部で学んだ基礎理論は隣接応用分野でも生かせるので、今後、奈良女出身の弁理士が増えることを願っています。

神谷特許事務所所長
昭和58年化学科卒業


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2007.4.1 updated