Lecture Tour in United States (YU)

 去る1月22日から2月3日までの間,文部科学省科学研究費助成事業・新学術領域研究「高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出」からのご支援をいただき海外講演旅行に行かせていただいた。最近,後周期遷移金属,特にパラジウムを用いた酸素を酸化剤とする炭化水素の酸化反応に関する研究を行っていることから,関連の深い研究をされていて筆者が興味を抱いた先生方に電子メールにて講演をさせていただきたい旨のご連絡をお送りした。全く面識が無いにもかかわらず,Liviu Mirica先生 (Washington University in St. Louis (WashU)),Andrei Vedernikov先生 (University of Maryland, College Park (UMD)),Elon Ison先生 (North Carolina State University (NCSU)),Shannon Stahl先生 (University of Wisconsin-Madison (UW))の4名の先生方からご快諾をいただいた。いずれの大学もアメリカの中部~東海岸に位置する。

 初日の1月22日に伊丹空港から羽田空港経由でサンフランシスコを経てセントルイスに向かう予定であったが,当日は関東で何年か振りの大雪となり搭乗予定の便が欠航となって羽田空港で一晩を過ごした。丸1日遅れの23日夜にセントルイスに無事到着した。遅延のため残念ながらWashUでの講演や化学科の先生方とお会いする機会はキャンセルとなったが,Mirica先生とは23日夜に夕食をご一緒し,また24日朝には2時間弱ほどの短い時間ではあったもののお互いの研究について最新の結果を含めて充実したディスカッションを行った。研究とは異なるがMirica先生との雑談のなかで,同大学の化学科では中国人留学生が相当多いらしく,その入学面接(百数十名程度)のために学科として組織的に先生方が毎年中国各地の大学を訪問しておられるとのお話しが印象に残った。


 同日昼過ぎにはメリーランド州ダラス空港行きの国内便に乗り,夕方にはUMDに隣接したホテルに到着しVedernikov先生と面会して夕食を共にした。翌25日は朝からOsvaldo Gutierrez, Phil DeShongの両先生とお会いし,Gutierrez先生からは実験と計算を両輪とした鉄触媒反応に関する研究(特に鉄錯体のスピン状態が反応性に与える影響について興味を持っておられた),DeShong先生からは界面活性剤ベシクルに関する研究について教えていただいた。11時より1時間ほど講演 (Palladium-mediated oxyfunctionalization of hydrocarbons using molecular oxygen)を行った。セミナー室はほぼ満席で(70名程度),多くの質問を頂戴して充実した時間となった。他大学でもそうであったが,講演内容が有機と無機の両方に関連するのでこれらの分野のジョイントセミナーとして開催していただいたことで比較的多くの方々に集まっていただけたようである。数名の大学院生と学内のレストランで昼食をいただき,午後はLawrence Sita, Lyle Isaacs, Efrain Rodriguez, Vedernikovの各先生から研究のお話しを伺った。Davis研の院生の方々からも研究を紹介してもらった。Vedernikov先生に関してはメタンの触媒的酸素化を見据えた錯体化学的な研究(メチルパラジウムまたは白金錯体の酸素に対する反応性など)がメインテーマの一つであり,筆者自身の研究と密接に関連するので勿論興味深かったが,Sita先生の5・6族遷移金属錯体を用いた窒素分子活性化反応も魅力的で,ホワイトボードを使ってこれまでの研究の流れをわかり易くご説明いただき活発な議論となった。Isaacs先生の小分子を極めて選択的にゲスト分子として取り込む超分子のお話しも面白く,研究成果の医療応用を目指してベンチャー企業を立ち上げているとのことであった。夜にはGutierrez, Sita, Vedernikovの各先生とUMD近くのレストランで夕食をいただいた。


 27日にノースカロライナ州のローリー・ダラム空港へ飛んだ。この辺りは湿度が比較的高く温暖で(この日は20 °C近くまで気温が上がった),森林が多く日本の温暖な地方と気候が似ている(それまでに訪れた2大学の地域はより北方でかなり寒かった)。29日は朝からNCSUでIson, Joshua Pierceの各先生から研究を紹介していただいた。Ison先生からは酸化反応とは異なるテーマとして,錯体が関与するfrustrated Lewis pairsについて実験と計算を絡めた最近の興味深い研究成果のお話しを伺った。ポルフィリンの研究をしているLindsey研に日本人ポスドクの方がいらっしゃったので久々に日本語で会話した。昼食にはIson研の3名の大学院生と近くのレストランを訪れた。この辺りは化学系企業が多いらしく,彼らのうち中米と東欧からの留学生はいずれも学位取得後はこの近辺で就職予定だと語っていた。午後にはCaroline Proulx, Wei-chen Chang, Vincent Lindsayの各先生とお会いした後,1時間半近く講演をさせていただいた。ここでもセミナー室はほぼ満員で聴衆は60-70名程度だったと思う。討論時間も長くとっていただいたお蔭で実り多いディスカッションとなった。その後にReza Ghiladi先生から生物無機系のご研究のお話しを伺った。夕食はIson先生とご一緒した。陽気な方で,喋った後にはよく豪快に笑っておられた。



 翌30日にはシカゴを経てマディソン・デーン郡地域空港に降り立ち,タクシーでUWに向かった。冷え込みが厳しく,シカゴ~マディソン間では空から池や川が凍っているのが見えた。31日午前にはTehshik Yoon, Dan Weix, John Berry, Danny Fredrickson, Judith Burstyn, Stahlの各先生から研究をご紹介いただいた。院生との昼食の後,午後にはLarry Dahl, Jennifer Schomaker, Clark Landis, Thomas Brunoldの各先生とお会いした。Landis先生のヒドロホルミル化の詳細な反応機構研究と加圧下でのNMR測定システムの開発に関するお話しが特に興味深かった。その後1時間以上講演をさせていただき,講演後は上述のうちの6-7名の先生方とともにLandis先生の居室で先生がお持ちの熊本の米焼酎(!)とプレッツェル,ナッツなどをいただきながら,研究以外にも大学のシステムから趣味,お酒,政治関連まで様々な話題で歓談した。講演された先生とこのように卓を囲むのが慣例らしく,棚の上を見上げるとそこには講演者のサインが入った多数のワインの空瓶が並んでいた。筆者も焼酎の瓶に漢字と英語でサインした。その後Stahl,Landis両先生とUW近くのレストランで分厚いステーキをいただきながら,引き続き四方山話に花が咲いた。


 このような機会を与えていただきました阪大の真島和志先生,東大の野崎京子先生はじめ関係の諸先生方に厚くお礼申し上げます。大変貴重な経験をさせていただきました。アメリカでの受け入れ先の大学の先生方にも温かく迎えていただき感謝致します。また,片岡靖隆先生には研究へのご助言を多数いただきました。最後になりましたが,片岡-浦研究室の学生の皆さんの日々のたゆまぬ努力のお蔭で研究が進展し,今回の講演旅行をさせていただくことができました。ここに深く感謝申し上げます。

 

2018年02月05日