Reseach Overview - Ura

Abstract

後周期遷移金属錯体、主にパラジウム錯体を触媒に用いて、環境負荷の低い有機合成反応の開発を行っています。特にアルケンなどの炭化水素類を基質として、酸素を利用した酸化反応や、副生成物が排出されない付加反応の開発に向けて研究しています。また、それら有機合成反応の触媒となり得る新しい遷移金属錯体の創製と、その反応性に関する研究も行っています。




Research Subjects

1. Development of Catalytic Oxidation Reactions of Alkenes using Molecular Oxygen

2. Development of Oxygenation Reactions of Hydrocarbons using Molecular Oxygen

3. Development of Anti-Markovnikov Addition of Oxygen Nucleophiles to Alkenes

4. Synthesis, Reactivity, and Catalysis of Novel Tiara-like Complexes



1. Development of Catalytic Oxidation Reactions of Alkenes using Molecular Oxygen

酸素を用いて穏和な条件下で末端アルケンの末端炭素側を選択的に酸化できれば、末端アルケンからの効率的なアルデヒド合成法(逆マルコフニコフ型ワッカー型酸化)となり得ます。この合成法は、現行のアルケンからのアルデヒドの工業製法であるヒドロホルミル化(オキソ法)を凌ぎ得る原理的に優れた方法であり、ヒドロホルミル化のように合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を使用しないことから安全性が高い点が特徴として挙げられます。私達は、酸化剤として酸素を用いた、パラジウム/銅触媒による芳香族アルケンからのアリールアセトアルデヒド合成反応を見出しました。この反応では、マレイミドなどの環状の電子不足アルケンを少量添加することによって、従来では実現できなかった、常圧の酸素下での反応が実現できました [1]。

CEO

上記の反応に関連する酸化反応として、私達は、末端アルケンからの末端アセタール合成反応も開発しました [2]。末端アセタールはアルデヒドの保護体であり、合成化学的に有用な化合物です。芳香族アルケンやアリルエーテル、1,5-ジエンなどを基質として、酸化剤にp-ベンゾキノンを用いることで反応が効率的に進行します。 


上記のアセタール合成反応をさらに発展させ、最近では、酸化剤としてp-ベンゾキノンに代えて常圧の酸素を利用できる触媒系も見出しました [3]。この反応では触媒量のメトキシ-p-ベンゾキノン(MeOBQ)の添加が鍵となっており、速度論実験の結果、MeOBQがパラジウムの配位子として働くことによって反応が加速され、効率的な触媒系となることがわかりました。


現在は、これらの反応における触媒活性と選択性のさらなる向上、および基質適用範囲の拡大を目指して研究しています。


References

1. Nakaoka, S.; Murakami, Y.; Kataoka, Y.; Ura, Y., Maleimide-assisted Anti-Markovnikov Wacker-type Oxidation of Vinylarenes Using Molecular Oxygen as a Terminal Oxidant,  Chem. Commun. 2016, 52, 335-338.

2. Yamamoto, M.; Nakaoka, S.; Ura, Y.; Kataoka, Y., Palladium-catalyzed Synthesis of Terminal Acetals via Highly Selective Anti-Markovnikov Nucleophilic Attack of Pinacol on Vinylarenes, Allyl Ethers, and 1,5-Dienes, Chem. Commun. 2012, 48, 1165-1167.

3. Matsumura, S.; Sato, R.; Nakaoka, S.; Yokotani, W.; Murakami, Y.; Kataoka, Y.; Ura, Y., Palladium-catalyzed Aerobic Synthesis of Terminal Acetals from Vinylarenes Assisted by pi-Acceptor Ligands, ChemCatChem 2017, 9, 751-757.


2. Development of Oxygenation Reactions of Hydrocarbons using Molecular Oxygen

酸素を酸化剤として用いて、炭化水素からアルコールなどの含酸素有機化合物を効率的かつ選択的に合成できれば、工業的にも、また、実験室レベルにおいても重要な合成反応となり得ます。私達は最近、ベンジルパラジウム錯体と酸素との量論反応が、n-Bu4NXなどのアニオン源やブレンステッド酸などの添加によって劇的に加速されることを見出しました。この反応ではベンジル配位子由来の酸素化生成物(ベンズアルデヒド、ベンジルヒドロペルオキシド、ベンジルアルコール)が得られます。プロトンの存在/非存在によって主生成物が変化し、反応機構も変化することが示唆されました。ベンジルパラジウム錯体は、炭化水素類の触媒的酸素化反応の推定反応機構におけるモデル中間体であり、ここで得られた成果は、触媒反応の実現に向けた重要な知見となるものと考えられます [1]。現在はこの酸素化反応についてのより詳細な反応機構を調べるとともに、触媒反応の開発を目指して研究を進めています。



Reference

1. Shimokawa, R.; Kawada, Y.; Hayashi, M.; Kataoka, Y.; Ura, Y., Oxygenation of a Benzyl Ligand in SNS-Palladium Complexes with O2: Acceleration by Anions or Brønsted Acids, Dalton Trans. 2016, 45, 16112–16116.


3. Development of Anti-Markovnikov Addition of Oxygen Nucleophiles to Alkenes

1-アルケンなどの単純な末端アルケンに対して水やアルコールなどの酸素求核剤を、酸素官能基が末端炭素側に来るように選択的に付加させることが出来れば(逆マルコフニコフ型付加)、工業的に重要な第一級アルコールやエーテルなどの、副生成物を排出しない優れた合成反応となります。従来の酸触媒反応ではマルコフニコフ型の付加しか進行せず、分枝型の炭素骨格をもった生成物しか得られません。触媒的な逆マルコフニコフ型付加反応の開発は極めて難しい課題ですが、私達は独自の作業仮説(推定反応機構)に基づいて、鍵となる遷移金属錯体を合成し、錯体の量論的な反応性を詳しく調べながら触媒反応への展開を目指しています [1]。



Note

1. 本研究課題は文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究「高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出」より研究費の助成を受けています(平成28-29年度)。


4. Synthesis, Reactivity, and Catalysis of Novel Tiara-like Complexes

ティアラ型錯体はニッケル、パラジウム、白金などの10族遷移金属原子がチオラート配位子で架橋された環状構造を有する中空の錯体であり、その内部は周囲を遷移金属原子に囲まれた特異な空間であるといえます。私達はこれまでに、パラジウムおよび白金8核ティアラ型錯体の選択的合成に成功しており、その内部空間にはジクロロメタンなどの有機ハロゲン小分子を包接できることがわかっています(下図の薄緑色が金属原子、オレンジ色が硫黄原子。硫黄原子上の有機基は省略) [1]。


また、ティアラ環の内部にヨウ素分子も包接できることが明らかとなり、ヨウ素分子は直線型および屈曲型の両方の型式でパラジウム6原子に対して弱く配位した特徴的な構造を有していることがわかりました [2]。ヨウ素分子の取り込みに伴ってティアラ環は楕円状に歪んだ形となっています。


その他にもティアラ環の拡大や縮小、金属イオンの包接など、興味深い反応性が見出されています。今後は、内部空間の広い10核以上のティアラ型錯体を選択的に合成し、その内部空間を利用して、ティアラ型錯体の構造的特徴を生かした小分子の触媒的変換反応の開発を目指します。


References

1. Yamashina, Y.; Kataoka, Y.; Ura, Y., Tiara-like Octanuclear Palladium(II) and Platinum(II) Thiolates and Their Inclusion Complexes with Dihalo- or Iodoalkanes, Inorg. Chem. 2014, 53, 3558-3567.

2. Yamashina, Y.; Kataoka, Y.; Ura, Y., Inclusion of an Iodine Molecule in a Tiara-Like Octanuclear Palladium Thiolate Complex, Eur. J. Inorg. Chem. 2014, 4073-4078.