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飯田 グループ:中間相における分子集合体の物性物理化学

基幹化学大講座 


 

適度な親水疎水性バランスを持ち,ゾルゲル系から
安定なガラス状態をとる,アシルアミノ酸の
発光性希土類(ユーロピウム)錯体

     

 

 




   

両親媒性分子の溶液内会合によりゾルが
形成され,溶媒が蒸発してゲルになり,更に,
アルキル鎖の絡み合いによるガラス状態が形成される

     

 






    私たちの研究室では,分子が集合することによって形成される「物質の秩序性と無秩序性」を基礎課題に据えています。物質の巨視的な「顔」は「相」として現れます。すなわち,気相,液相,固相といった状態です。これらは,分子間相互作用と熱運動という,秩序性と無秩序性のバランスの違いから生まれます。長い化学の歴史の中で,多くの分子が設計・合成され,あるいは実験技術の進歩があり,その結果,上の三つの相以外にいくつもの種類の相が見いだされています。その中で代表的なのは,液体(液相)と結晶(固相)の間の「液晶」です。これは科学的に興味深い性質を持っているだけではなく,ディスプレーとしても,あるいはあまり目立たないですが化粧品としても大いに活躍しています。液晶は日常的には物質群に対して使われる言葉ですが,元来は結晶のような異方性を持った液体という状態に使われる言葉です。同様に,珪酸塩や高分子化合物がとりうる「ガラス状態」も基本的には固体ではあるが,構造的・熱力学的には液体に近い状態です。これらは,液体と固体の中間の相ということで,「中間相」と呼ばれています。水を高温・高圧下に置くことによって達する,「超臨界水」と呼ばれる「物質」は大変面白い性質を示します。これも液体と気体の間の「中間相」です。中間相は液晶に見られるように,基礎科学の立場から大変興味深いばかりではなく,その特異な性質を生かして実用面からも期待できます。中間相の中で比較的研究が進んでいる液晶に限っても,ディスプレーに使われているサーモトロピック液晶と化粧品や生体系で重要なリオトロピック液晶があり,新しい液晶物質が開発されると共に更に新しい状態が見いだされるなど,基礎学問としてもまだまだこれから大いに発展する学問領域です。ガラスは液晶よりずっと昔から人類と深く関わってきましたが,液体と固体の間の中間相といっても熱力学的には平衡状態にない不安定な状態で,その不思議さは基礎科学の観点からまだまだ未知の極めてミステリアスな状態です。そして,ここ数年急速に脚光を浴びている「イオン液体」も,ガラス状態や液晶状態と密接に関連した中間相と見なすことが出来ます。
 私たちの研究室ではこの20年来,金属錯体を含む系を対象にするという独自なスタンスの下,液晶から始まって,ガラス状態,そして今や「イオン液体」を主なターゲットとして,ユニークな中間相(液体と固体の間)を創出し,詳細な性質を多角的に研究しています。液晶系については,金属錯体の特異的な相互作用をNMRを用いて研究する点に特色がありました。ただし,一方でクロム(III)の両親媒性の複核錯体が水溶液中でユニークなリオトロピック液晶を形成する事を阪大や愛媛大のグループと共に見いだしました。これは通常の分子構造からは予想できない珍しい液晶系として,液晶関係の単行本や総説でもしばしばページを割いて紹介されています。
 一方,数年前にはアシルアミノ酸の希土類錯体が,低分子金属錯体という大変結晶化しやすいカテゴリーに属する分子でありながら安定なガラス状態を取ることを見いだしました。希土類特有の発光性の物性を生かして,またNMRやX線散乱の手法を用いて,濃厚溶液での集合体形成を経てガラス状態に至る過程を構造の立場から追及しています。 一連の分子がアミノ酸系極性基を持つという特色を生かして,フェニルアラニンやセリンなどの誘導体について調べ,その過程で「液晶性ガラス」という珍しい状態も見いだしております。このような分子性ガラス状態は,希土類金属のみならず,マグネシウムやカルシウムのようなアルカリ土類金属でもとりやすい事が分かりました。しかし,希土類錯体の方がより安定なガラス状態をとるようです。また,亜鉛のようなよりソフトな金属になると,結晶性が高まるようです。金属錯体の構造と非晶質性との関係を明らかにするためにより系統的な研究を行ってゆくのが今後の課題です。これらの研究はいずれも新規な化合物を分子設計し,合成することによって行っています。
 そして,2年程前から,特に力を入れて取り組んでいるのは「イオン液体」の研究です。発端はすでに今から5年程前にありました。すなわち,サーモトロピック液晶状態をとる新たに開発した銀のイオン性錯体が40〜50℃の低い融点を取ることを見いだしておりました。当時は液晶研究に力を注ぎましたが,既に融点が100℃未満という広い意味でのイオン液体系に触れていたことになります。その後しばらくして,イオン液体系への関心の高まりに乗じて配位子や対イオンを変化させることにより,新たな室温イオン液体系もいくつか創出しました。更に,同じ配位子の誘導体系から金属を含まない新たなイオン液体系も開発しつつある状況です。ただし,ここでも金属イオンあるいは金属錯体部位をその系に含む点に特色を出しています。このようなカテゴリーのイオン液体系はまだほとんど報告例のないものです。イオン液体系の研究にも独自のスタンスを持って臨めば,そこには,液晶・分子性ガラスと密接に関連する分子集合体の秩序・無秩序の世界と出会うことになります。
 以上のように,「中間相」に展開される広範な分子集合系の魅力ある挙動を,熱,蒸気圧,電気伝導度,活量,蛍光スペクトルなどの伝統的な測定手法と,NMR,X線散乱,X線吸収,FTIR,電子顕微鏡,電子線回折などの構造化学的な手法とを組み合わせて,追及しております。
 研究し勉強すればする程,この奥行きの深い,分子集合体中間相の世界の果てしない魅力がより理解されてゆくはずです。

   

 研究の履歴:

1)金属錯体の加水分解反応に対するイオン間相互作用の効果
2)繊維組織構造に対する光散乱ならびにX 線小角散乱による研究
3)金属錯体イオン対形成に関する電気伝導度ならびに動的NMRによる研究
4)ミセルならびにリオトロピック液晶と金属錯体との相互作用に関するNMRによる研究

5)貴金属錯体の形成する集合体の構造とそこから形成する金属ナノ粒子
   のサイズならびに形状との関連性
6)アシルアミノ酸希土類錯体のゾル・ゲル・ガラス状態形成と発光挙動

現在の研究課題:

1)アルキルエチレンジアミンならびにアルキルジエチレントリアミン系の金属錯体

  から成るイオン液体の構造と機能性の追求

2)アルキルエチレンジアミンならびにアルキルジエチレントリアミン系の

プロトン性イオン液体の構造と性質―特に遷移金属との選択的相互作用

場 所:理学部 C 棟 C312 (教授室)314/315(実験室1),316(学生居室), 318(実験室2)号室

  研究室の見取り図

 


 

 問合先:

奈良女子大学理学部化学科 飯田雅康
630-8506 奈良市北魚屋西町
電話 (0742)20-3397
FAX (0742)20-3397
E-Mail:
iida@cc.nara-wu.ac.jp
http://www.chem.nara-wu.ac.jp/~iida



 最近の代表的な発表論文:


 所属学会:

日本化学会,同コロイド界面部会,アメリカ化学会,日本液晶学会,希土類学会,溶液化学研究会(運営委員),錯体化学会,イオン液体研究会


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Last update: July 7, 2009